2009年6月4日木曜日

医薬品ネット販売規制を考える

なぜ医薬品のネット販売は禁止されたのか。クスリと政治と選挙の関係:日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090602/196502/

この6月に医薬品販売の規制緩和と規制強化が同時に行われた。規制緩和は薬剤師でなくとも「登録販売者」がいれば一部医薬品を販売できるというもの。規制強化は医薬品のネット販売の禁止だ。一方では販売できる人を増やし、一方では販売できない人を増やす。典型的なマッチポンプである。明らかに規制を強化したチャネルから規制を緩和したチャネルに消費を誘導しようという魂胆が透けて見える。

日経ビジネスオンラインの記事では、
「それにしても、天下り先確保のためだけに、パブリックコメントで国民の97%が反対した政策を押し通したという論には無理がある。」
とある。

この規制が政治家が関与する法律ではなく、官僚が恣意的に運用を決定できる省令によって行われたことは非常に大きな問題だ。この規制が「真に国民利益に利する」ものであれば、これほどの反対は起こらないが、記事でも書かれているように規制の根拠が不明確である。ネット販売を含む通信販売業者はこの規制強化について警戒を強める。これを期に官僚が流通量が増加するネット通販に対して規制をしかけてくるのではないかという恐れを持っているのだ。

今回の規制強化には副作用などによる健康障害が発生したことも背景にあるようだ。だから、薬害被害者の団体が規制強化のマスコットとして担ぎ上げられた。だが、考えてみれば薬害の殆どは医師の処方が必要な処方薬によるもので、そもそもそんな薬品はインターネットはもとより処方薬を扱わない薬局ですら関係がない。薬害被害者の団体は規制強化派に利用されたわけだ。

「対面販売での安全確保」の実効性は記事でもルポされているように疑問である。そもそも、医師でもない薬剤師が顔色を窺って病状を「診断」することは出来ない。薬剤師は自己申告される症状を聞いて、その症状に合う薬品を奨める位が出来ることであり、同時に複数の薬品を購入しない限り、複数の薬品を服用することで引き起こされる副作用などを説明することも出来ない。経験的に言っても薬局で薬品を買うときに薬剤師から説明を受けることなど皆無だ。

つまり、仮にインターネットで医薬品の副作用などの機微情報が購入者に伝わらないというのが事実であったとしても、現実の薬局も同じ様に薬品の機微情報を購入者に伝えたりしていないということになる。ネット通信販売業者が主張する様に、購入者の購買履歴をデータベース化することの出来るネット通販であれば注意すべき医薬品の買いすぎなどについて制限をかけることは可能であるが、薬局では個人情報の確認は義務付けられていないので購買履歴を管理することも出来ない。

はてさて、こう考えるとこの規制強化は「国民の安全」にも「流通の効率化」にも繋がらない。記事でも紹介されているように、薬剤師会の意向が働いているのだとしたら、薬剤師会としては「会員の雇用確保」が目的なのであり、それは「国民の雇用確保」にも繋がるわけだから結構なコンフリクトだ。でも、考え方を変えてみれば、医薬品通販の流通量が拡大すれば、購入者の服用にあたっての相談とか通販サイトの医薬品機微情報データベースの管理など今までの薬局ではしていなかった新たなサービス需要が生まれるわけで、薬剤師が「今までの仕事」による雇用は失うかもしれないが、「新しい仕事」による雇用は生み出されるわけだから、ネット通販に反対する理由はなくなってしまうと思うのだが。

0 件のコメント: