2009年5月29日金曜日

原因と結果を取り違えない

東京は二日連続の雨となった。入梅宣言はまだだが、この雨の影響か通勤電車も少しだけ遅れた。

以前、友人と以下の様な会話を交わしたことがある。

僕:「また、雨か〜」
友人:「梅雨だからね」

友人は「梅雨だから雨が降る」という論理構成であったが、これは間違っている。「雨が降り続くのを"梅雨"と命名した」というのが正解だ。雨が降り続くのは梅雨前線が停滞しているからで、もっと言えば南方の湿った温暖な空気のかたまりが北上し、北方の寒冷な気団と日本上空でせめぎ合って雨が降っているわけだ。更にいえば、地球と太陽の位置関係から北半球の赤道付近が暖められ、熱によって膨張した暖かい気団が寒冷な極地方面に流れ出していて、その移動中に太平洋の海面から水分を吸収し・・・・。まあ、色々とあって雨が降り続くわけだ。梅雨という言葉は一番最後に出てくるわけだ。

会社で話をしていても同じ様なことはある。

経営者:「業績が思わしくない」
部下:「不況ですから」

「100年に一度の不況」というのは人口に膾炙してしまっている。どこに行ってもその言葉を理由にしているが、実は原因と結果を取り違えているのではないだろうか。僕の会社は消費財の物流事業を行っている。売上が上がらないのは消費財が売れないから・・・というのが社内の常識になっているが、実は違うのではないかと思う。というのも、売上が実質的に伸び悩んでいたのはこの数年のことだからだ。問題は消費財の物流構造が変わってきているからだといえる。私達が扱っていた消費財は他のものに比べて「大量製造/調達、大量販売」であった。なので、売れるかどうかは別にして店頭に商品を「並べる」ことがロジスティクスの目的で、そのため私達の会社では「沢山お店に運んで、沢山お店から持って帰ってくる」ということを繰り返していた。持って帰ってくるのは売れ残り品の返品だ。
ところが、この業界でも「売れる分だけ製造/調達して販売する」というJITモデルが普及し始めてきた。そのため、物流量は徐々に減少に転じていたわけだ。それでもJITモデルを採用しているのは少数派で、多くは旧来のビジネスモデルを採用していた。それでもこの消費財メーカーや小売店が売れていたのは限界利益率が他の消費財に比べて高いことと、個別の商品にブランド力があったために最終的には売れていたからだ。消費財としては必需品というよりも奢侈品に類するものであったため、商品の企画に投資し大量に生産流通させて広告をうちプレゼンスを高め、生産量の半分程度が売れれば利益が出るというものである(ここまで書くと何を扱っているのか大体分かりそうだが)。つまり、販管費が高く原価が安いビジネスモデルである。

利益=売上−(A.商品企画費+B.広告費)−C.販売費−(D.生産原価+E.物流経費)

しかし、消費者の収入が減少傾向にあり、可処分所得が少なくなってくると奢侈品の販売量は減少していく。売上が減少してもAとBは減少しない。Cは商品のプレゼンスに影響するのでなかなか削減することは難しいが、それでもチャネルを整理して不採算店舗を閉店するなど削減は着手している。次は売上に比べて大きくなっているDとEだ。基本的にEはDに比例しているので、単位あたりのEを値下げさせてからDの量を削減した方が効果は高い。JITでのロジスティクスは売上を更に下げるリスク(売り逃しリスク)があるが、十分なデータ分析と勇気ある決断によって生産量は急速に減少している。単位あたりの物流費値下げは元々の生産量を前提として計算されているため、物流業者にとってはギリギリの見積りを出したつもりが量の減少によってあっという間に赤字に転落してしまうということが現実におきてしまっているわけだ。

こう考えてくると、我々の会社の赤字は顧客の生産量=流通量減少に主に起因していて、その現象は仮に景気が良かったとしても発生していたものだということが出来る。もちろん、消費者の急激な消費意欲の減退は収入の減少と将来的な回復が見込めないことに起因している。更に、収入の減少は企業の売上減少によってもたらされたもので、その売上減少の一部は消費の減退に起因する。その余は企業間取引の減少によるものだ。ただし、企業間取引の減少は最終的には最終消費者である給与生活者の買い控えによるもので、それは収入の減少によって起きているという循環構造になっている。

さて、そう考えると「業績が上がらないのは不況だから」ではなく、消費の循環が遅くなったことによるものであって、その減少自体を我々は「不況」と呼んでいるという「初夏の長雨を梅雨と呼ぶ」と同じ構造になっているわけだ。この消費循環の減速が起きたのは所謂サブプライムローン破綻によって実質的に収入が減少してしまった人が太平洋の向こう側に多く発生し、更には金融機関の融資引き締めで資金繰りが悪くなって倒産する企業が増えて失業者が増えたことなどが原因で、それが貿易取引の減少をもたらし日本国内の消費循環速度にも影響を与えたものといえる。

なるほど、我々の業績悪化はサブプライムローン破綻が原因なのだな・・・と思うなかれ。実際はサブプライムローンはアメリカの消費循環を「加速」する効果を持っていたのであって、今回の破綻による減速は加速を調整するために行われているという風に見るべきだろう。つまり、逆にバブル崩壊の後の業績悪化から脱出できたのはサブプライムローンによる加速のお陰ともいえる。だから、この加速にのって業績を回復した会社が減速の影響をうけるのは当然であり、この加速と関係なく業績を伸ばした会社が好業績をあげ続けているのは当然のことなのである。

ビジネスマンとしては「不況だから」というのは失格で景気と関係なくビジネスニーズを捉えて、そんなものに左右されないビジネスモデルを構築するべきなのだろう。

2009年5月28日木曜日

GMの断末魔

日経新聞 一面
「GM債務削減に失敗—法的整理濃厚に」

GMが自主再建を断念する事態になりそうだ。債務圧縮への同意が取り付けられず、破産申請による再建に移行するという。アメリカ政府が資金注入しても再建にはほど遠かったということだろう。

確かに、GMが破綻すると多くの取引会社の経営に影響があるだろう。ただ、それも含めてビジネス上のリスクだし、いちいち政府が支援するものでもないと思う。失業の憂き目にあう労働者支援は必要で、再雇用のためのトレーニングなどにお金を使った方が良い。企業が再雇用者を試用する時の助成などがあっても良いだろう。

あまり長引かせない方が良い。延命出来ないものは出来ない。アメリカ国民はこのピンチにもGM車の購入で助けようとは思っていない。ビジネスの環境の中でも、市場からも、国民感情からも見捨てられた会社は退場するしかないのだ。

2009年5月25日月曜日

新型インフルエンザ騒ぎはなんだったのか

官房長官「新型インフル、終息の方向」(朝日新聞)

(引用)
新型の豚インフルエンザについて、河村官房長官は25日午前の記者会見で「日を追うごとに発生は減ってきているので、推移は十分注意していくが、終息の方向にむかっているという感じを持っている」と述べた。
(引用、ここまで)

一体なんだったのか。新型インフルエンザ騒ぎは大爆発(パンデミック)といった現象は起きず、結果的に「大山鳴動してねずみ一匹」という次第となった。海外では死者が出て非常に危険なウィルスという印象が強いが、感染力も毒性も流行性インフルエンザと変わらないという事実と水際対策として行われた機内検疫が徒労に終わったことで、政府の対応に疑問が出そうだ。今になって「専門家」からはウィルスが蔓延することによって強毒性に変異することが危険なのだから対策には意味があったという見解が流布しているが、ならば流行性ウィルスの対策も今後は同様にしなければいけないというのだろうか。

海外ではインフルエンザ対策は「手洗い消毒の励行」という程度で、日本のようにマスクまですることはないのだそうだ。実際、最近よりも小さなウィルスはよっぽど機密性の高いマスクでなければ進入を妨げることは出来ない。精々口元の湿度を高めて好気性のウィルスの死滅を期待する程度でしかない。それよりも屋外で手に付着したウィルスを洗い流すほうが効果的というのは理由のあることだ。

官房長官は水際対策を含めた対応が事態を収束に向かわせたと言っているが、実際には生命力の弱いウィルスが日本の多湿の風土の中で自然に死滅していったということだろう。湿気の多い日本ではインフルエンザウィルスよりも水虫の方が対策を講じるべきものだと思う。

新型インフルエンザという「祭り」は終わったということなんだろうと思う。