2009年1月7日水曜日

何かを攻撃しても問題は解決しない

先日テレビの討論番組を見ていて思ったこと

その討論番組は昨今話題の「救急病院たらい回し」に関するものであった。

救急病院側の人手不足という窮状。救急担当医や産婦人科医の殺人的な勤務実態などを下敷きに討論が繰り広げられていた。

討論の最後に、「これは人手不足の問題ではない。勤務医と開業医の待遇格差の問題だ。開業医は勤務医の数倍の所得が得られるし、休日もとれる。開業医にも相応の負担をさせないといけない。」という意見で締めくくられた。

この最後の言葉がずっと心にかかっていた。

勤務医と開業医の違いは何だろう?

給与?

勤務?

確かに給与は違う。開業医になれば勤務医とは桁違いの収入を得ることが出来る。
勤務時間も違う。開業医であれば自分の方針で休診できる。

だが、開業医は多くのスタッフを抱えて雇用を維持し、融資などの金勘定も含めて勤務医以上に負担が大きい。
その対価として高い所得を得ることになんの問題もない。
そもそも、開業医で成功するというのは結構大変なものだろう。
患者を固定客を掴まないといけない。地縁があれば別だがそうでなければ地道に名を売っていかないといけない。
医療スタッフを統率することも出来ないといけない。
採用・指導。。。。
医薬品の仕入もしなければいけない。
何より病院を潰さないように経営者として行動しなければいけない。

勤務医は病院経営など考えなくても良いという点で開業医よりも気楽だ。
それに勤務医であっても、経営者(院長)などになれば収入は開業医と同じくらい貰っているはずだ。

勤務の方が開業医よりも勤務時間が長いというのは本当だろうか?
自宅開業や医師一人で開業している場合、開業医は連続勤務をしなければいけない。
産婦人科や小児科などで開業している場合は夜も昼もない。実際、一人で一晩に何人もの赤ちゃんを取り上げている産婦人科の開業医を知っている。

すると開業医と勤務医の違いはそれほど大きくはない。

なら、勤務医を忌避して開業医になろうとする医師や美容などの専門医になろうとする医師が多いのはなぜだろうか?

僕はそれは勤務医が置かれている環境が決して良くないということなのだと思う。

開業医は地域の名士だ。尊敬もされ感謝もされる。
だが、勤務医は病院のお医者さんのOne Of Them。
しかも、近年は勤務医が非常に社会から迫害されている。
命を救って当然、失敗すれば裁判沙汰。
マスコミは名指しで非難し、病院内でも責任を追及される。

如何に青雲の志を持つ医師もこれではくじけてしまうだろう。
懸命に命を救おうとした産婦人科医が遺族に訴えられるならまだしも警察に検挙される。
医療行為の上で、患者が死亡することがあるのは当然だ。
医療ミスか故意かはなかなか分からない。
もしかしたら犯罪に相当する悪質な行為もあるかもしれない。

だが、

「誰も殺そうと思って医者になる人はいない」

のだ。

この討論番組は最後に非難の矛先を「開業医」に向けた。先の妊婦たらいまわし事件で病院側が医師の勤務実態を公表して受け入れが物理的に出来なかったことを説明したため、受入れ拒否をした病院を非難しにくくなったため開業医に攻撃対象を変えたのだろう。
愚かなことだ。仮に開業医に非難が集中し、開業医がリスクの高い診療科を廃止したらどうするのか?
小児科は町のクリニックの多くで扱われている。
それが、小児科の看板を下ろすようなことになればどうするのか?
それによって町のクリニックが立ち行かなくなって廃業したらどうするのか?

メディアは知るべきだ。
視聴者に阿って勤務医や病院や開業医を非難することで得られるものは何もない。
メディアは悟るべきだ。
視聴者たる市民の「コンビニ受診」が病院のリソースを枯渇させていることを。
メディアは決意しなければいけない。
視聴者に「コンビニ受診」をしなくて良い方法をプロモートすることを。

メディアがなすべきことは医療体制への非難ではなく、医療機関や医療関係者と協力して医薬品メーカーをスポンサーに市民を啓蒙することなのだと思う。

非難されるべきは「たらいまわしが発生する状況」なのだ。
そして、その状況は関係者の多くの「善意」の結果、発生しているのだ。
だから、状況を敵として立ち向かっていかなければいけない。
「どうやればたらいまわしはなくなるだろうか」と。

0 件のコメント: