2010年1月12日火曜日

崖に続く楽な選択

今、ある事業再生に取り組んでいる。

その事業はマーケットがただでさえ年率数%縮小し、この一年では一割以上縮小した。長く寡占状態が続いたため、特にトップ企業は高コスト体質になってしまい、市場縮小をキャッチアップしている二番手以下よりも業績が悪化し、破綻寸前となっている。事業再生には大幅な改革が必要で、業界の幾つかの(あるいは、殆どの)慣習や常識を破らなければいけない。

さて、事業責任者と話をすると、これ以上コスト削減は出来ないと言う。現場のことを知りもしないで数合わせしてもしょうがない、とも。マーケットが縮小する中で競争が激化し利益がとれないのは"当たり前"なのだから、他で稼ぐべく新規事業を開拓して欲しいなどと言う。

確かに、マーケットが縮小している時の事業責任者は辛い。ある意味、マーケットを創造しようと言う新規事業開発者より辛いだろう。だが、後がないベンチャーと違って、なまじ他の事業などがある為に言うことが甘くなる。

この事業責任者は"甘い"。一般的に寡占業界のトップ企業は二番手以下が太刀打ち出来ないくらいのコスト競争力がある。大抵の場合、業界品質を決めることが出来るし、規模の経済を働かせることも出来る。事実上の標準(de facto standard)を握っているため、市場動向を何処よりも早く入手し、競争相手に先駆けて対応することが出来る。

ところが、この事業は業界をリードすることが出来ず、規模だけはトップクラスだが、コスト競争力は劣り、市場対応も遅い。全てが悪い方向に向かっている。

なら、この事業の向かうべき方向性はどうあるべきか?

まずは、徹底的なコストカットだ。実際には節減したリソースをカット(解雇など)することは難しい。だが、「生産性」を向上させることでリソースの空きを作ることが重要なのだ。リソースに空きが出れば、外部から調達しているものを(全てではないが)内製化出来る様になる。内製化率が上がれば、すなわち調達率が下がれば限界利益率が改善するため損益分岐点が下がる。

アウトソースの利用について誤解があるのは、自分たちのリソースから零れた分を外部から調達しようとすることが多いと言うことだ。だが、本来ならば需要がこぼれるほど沢山あるならば、自分たちのリソースを工夫して遣りきるのが正解で、アウトソースを使うのは、付加価値の低い単純作業でない限りは止めた方が良い。外注は「需要が少なくて安定していない部分」に限って行うべきで、十分な需要があるならば内製化するべきなのだ。

だが、こういうことが出来ないと後はない。そう分かっていてもなかなか方向転換出来ない。崖に続くと分かっていても歩き続けるものなのだ。

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