2007年9月9日日曜日

山口・光市母子殺害 橋下氏のTV発言波紋

日経新聞 9月9日 朝刊 39面
「山口・光市母子殺害 橋下氏のTV発言波紋」

橋下弁護士が読売テレビの関西ローカル番組「たかじんのそこまで言って委員会」でこの事件の弁護団に対して不満を感じている人に「弁護団に対して懲戒請求を出して欲しい」と発言し、弁護団の弁護士に対して4000件を超える懲戒請求が全国から集まった件。

弁護団の弁護士が橋下弁護士を訴え、橋下氏は全面的に争う姿勢を崩さない。ネットでもこの騒動は話題になっていて、懲戒請求を出すための手順を紹介したサ イトや懲戒請求のテンプレートなどが掲載されている。こんな状況に対して、橋下氏に扇動されて懲戒請求を出した人は損害賠償の対象になるという意見や請求 の根拠を信じていれば損害賠償の対象にはならないなどの論争も展開されている。

この騒動のポイントは「刑事事件の弁護っていうのはこんなことまでして良いのか?」ということに対する世論の反応である。この事件は未成年の男性が、女性 とその子供(乳児)を殺害したということに対するもので、現時点の判決ではこの少年は死刑には至らず、検察が控訴している状態だ。ここで、最高裁が死刑を 回避した判決が不当ではないかという指摘をして高等裁に差し戻したことで、事件が大きく動いた。

新しい弁護団が組織され、この弁護団はそれまで殺意について否認をしなかった被告を説得して、殺意を否認する証言を引き出したのだ。しかも、報道されたその内容は被害者の夫であり父である本村氏の怒りを誘うものだったし、その怒りは世間の共感を呼ぶものであった。

この時点で、弁護団が「死刑廃止」の主張をしている弁護士を筆頭として組織されていることは知られていたので、自分のイデオロギーのためにこの事件を利用するのかということについて本村氏が指摘し、大いに共感を集めた。

しかし、報道されているだけでは多くのこの事件に関心を持っている人たちには何の関係もない話であっただろう。事件当事者でない身としては関わりを持つこ とが出来ないと思っていたからだ。しかし、橋下氏の発言により多くの人たちがこの事件に関与する方法を知ることが出来た。懲戒請求は実名で行うものである から、請求をしたリアクションに対してある程度責任を取ろうという人が実行に移したということだ。決して、無責任に請求を起こしたわけではない。

この事件について、僕は橋下氏が自分のメディアにおける影響力を十分理解した上で発言したということなので、自信もあれば責任もとろうとしているというこ となのだから立派な行動だと思う。逆に弁護団は「死刑廃止」という法律の改正を政治家になって、もしくは政治活動に関与することで実現する影響力も覚悟も なく「みんなで渡れば~」的に徒党を組んでいるだけのことだから卑怯であると思う。

懲戒請求は「死刑に反対している」弁護士を叩きのめそうとして世論が動いたものではない。「イデオロギーの実現のために現実に起きている事件を利用してい る」弁護士の行動に怒りを感じてのことだ。もし、弁護士達がそこを勘違いしているのであれば、恥をかくことになる。恐らく請求を出した人の中には「死刑は ないほうが良い」と思っている人は沢山いるに違いない。しかし、その主張を通すために政治や法律によらず、法廷でのやり取りで被害者を傷つけながらやろう をしていることに疑問を持っているということなのだ。

さて、引用した日経新聞に作家の佐木隆三氏の話が載っている。「自分は弁護団の弁護戦略は卑怯だと思っているが、自分は自分で裁判を傍聴して意見を言って いる。傍聴もせずに、報道を聞いただけで橋下氏に煽られて懲戒請求をした人は情けない。」という趣旨のことを言っていた。

この佐木氏の言葉こそ情けない。ジャーナリストとしての自分の存在意義を自分で否定していることに気づいていない。彼の言によれば、世の中の事象のあらゆ ることは自分で見聞きして意見を言うべきだし、行動するべきだということだ。つまり、仕事もせずに裁判を傍聴し、国会中継を見て、政治家の演説会に足を運 び、時間とお金をかけた人間以外は何も言うな。と言っているに等しい。これはなんと不見識なことか!

世間や社会の事象について、知りえないことや知りたくても物理的・経済的に知ることが出来ない人に、取材を通じて情報提供することがジャーナリストの唯一 の価値であろう。その情報に接して多くの人は自分の意見を形成し、選挙などの社会的な行動に移っていくのだ。もし、ジャーナリストが伝えた情報が視聴者の 行動に結びつかないものであるとすれば、彼らの存在意義は全くない。彼はジャーナリストであり、作家であることがそれほど偉いことだとでも思っているのだ ろうか。

そして、最後にもう一つ。橋下氏の発言は生放送でのことではない。そこには読売テレビによる編集が入っている。だから、橋下氏の発言自体は彼が責任を取る べきだが、テレビによって報道されたことに起因する影響の部分は全て読売テレビに責任がある。しかし、弁護士達は今回の件でテレビ局を訴えていない。これ は報道の自由を尊重してのことだろうか。もしそうであれば、橋下氏の発言も表現の自由の範疇に入ることであり、訴えられる筋合いのないものということにな る。

例えば、橋下氏が生放送や街頭演説で今回の発言を繰り返したのであれば、個人的に扇動しようという気持ちがあるということだが、収録での発言ということで あれば、この発言が電波に載った責任はテレビ局に帰結するものだ。つまり、弁護士達は訴える相手を間違っているということだと思う。

この騒動がどの様に収まるのかは分らないが、レベルの低い弁護士(橋下氏のことではない)の態度が変わってくれると良いと思う。

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