2011年2月28日月曜日

デフレギャップの解消には「供給削減」か「需要拡大」しかないのか?

三橋貴明氏が日経オンラインで以下の様に書いている。
「何度でも言う、TPPは「インフレ対策」です」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110224/218588/?P=4&ST=money

「日本がデフレから脱却するためには、需給の乖離であるデフレギャップを縮小させる必要があるが、方法は2つある。すなわち「供給能力」を削るか、あるいは「需要」を拡大させるかである。」

そして、氏は

「供給能力の削減とは、企業の工場閉鎖や設備廃棄、それに人員削減などになってしまう。すなわち、リストラクチャリングだ。企業がリストラを推進すると、国内の失業率は上昇する。失業率が上昇すると、当然ながら個人消費は減少してしまう。」

と言い、民主党が政権奪取当初に麻生政権の補正予算を停止した件を批判し、「民主党は「総需要抑制策」をしている」と批判している。

批判はTPPにも向けられ、TPP参加によって日本の産業(農業)にダメージが及ぶと失業が発生しリストラと同じ効果を生むと説いている。

この論では三橋氏は「日本の総需要と総供給」を比較し、総供給に対して総需要が不足しているからデフレも止まらないし、そんな中でリストラすれば更に需要が不足してデフレが更に進むことになると主張している。しかし、この「総需要と総供給」を比較するという点に、「何の需要が不足」していて「何の供給が過多」なのかという視点が欠けているように思う。つまり、日本の需要側のニーズと供給側の構造のギャップに問題はないのかということだ。

例えば、多くの公共団体や公益法人の中にはその役目を終えても存続している企業が多くある。昔は求められていた技術や供給能力も今では不要になってしまったというものもある。JALの例などは、昔は飛行機旅行に対する憧れやそもそも一生に一度といった貴重な体験だったものが、日常的に飛行機を利用するようになったことで旅客航空に対するプレミアムが下がっていった。更に、海外の格安航空会社が示したのは「今の航空運賃が高すぎる」という事実であり、その中には従業員の高い給料や年金負担などがあったわけだ。それが、利用者が航空に感じる価値は下がり(今や出張でもない限りスーツで飛行機に乗り込む人はいない)、「厚サービス・高価格航空の需要は少なくなり」「薄サービス・低価格航空の需要が多くなった」ことで日航という会社は破綻に追い込まれるほどになってしまった。

本来であれば、もっと早い段階で破綻・新会社での再出発が行われ、その過程で給料の切り下げや年金の処理なども出来た。それが今までもつれることになったのは日本の労働環境が硬直的でニーズがなくなった産業やサービスを維持する構造になっていることだ。それが需要側にも消費意欲の減退をもたらし結果としてデフレになってしまっているわけだ。

ここで考え方を変えて、三つの改革を行うことで供給側の構造を変えて需要側のニーズを消費につなげることを目指さないといけない。一つは事業会社の破たん処理を促すということである。事業会社の破綻には、経営者・従業員以上に金融機関の事情により本来破綻するべき企業が破綻していないという背景がある。亀井静香の肝煎りで始まったモラトリアムは金融機関にとっては不良債権隠しのモラルハザードを引き起こした。コレによって破綻したくても出来ない企業がどんどん増えている。

これらの事業会社を、中小から大企業まで、速やかに破綻・再出発に移行できるように促すべきだろう。その為には二つ目に雇用規制の緩和が必要になる。事業会社が事業の一部を残して、他を整理縮小し再スタートを図ろうとしても、実質的に整理解雇が禁止されている状況下では従業員を抱え込んで共倒れするしかない。「知恵を絞って再建させる」といっても全て再建可能な話ばかりでもない。解雇が出来る様にすると共に、今では雇用継続の為にかけられている社会保障を再雇用のための訓練などにシフトしていけば、一時的に失業者が増えても労働力の移転が行われることで失業率は速やかに下がるだろう。

三つ目には産業規制である。各種の参入障壁や許認可を可能な限り撤廃して新規参入を容易にする。1000円バーバーの草分けのQBハウスは参入にあたって保健所の指導など様々な障害があったという。それを乗り越えてなんとか理容業界に参入した。確かに散髪価格が下がるという"デフレ状態"には陥っただろうが、例えば家庭でお母さんが子どもの髪の毛を切っていたケースの多くはQBハウスで切るようになっただろう。散髪をする総数は格段に増えて、QBハウスに続く参入者が既存業者も価格を下げることで、理髪業界は活発化している。これなどは参入障壁が乗り越えられないほど高かった場合は、供給と需要がミスマッチのまま理髪業界は衰退の一途を辿ったであろう。今ではQBハウスなどは海外進出まで果たしている。

確かに三橋氏が言うように、民主党は日本経済をダメにするような政策しか行っていない。「事業仕分け」などは本来ならば「規制仕分け」をするべきだったのだ。と同時に、「省庁仕分け」をして公務員を削減するべきだった。公務員ほど再雇用に有利なキャリアもないであろうから、そうやって労働市場に流出した人材が中小企業やベンチャーに入って新しい市場を生み出していけば、リストラのマイナス効果などあっという間に解決するだろう。三橋氏が言うように、「デフレなんだから需要を喚起する政策を」というのは分からなくもないが、ならば「どれだけの需要を喚起すれば」即ち「どれだけ公共投資をすれば」デフレが解消できるくらい需要が喚起されるのか?というのが問題になるだろう。40兆円などという人もいる。公共支出の乗数効果は高々三倍程度なので、それを期待しても13兆円以上の公共投資をしなければいけない。

この13兆円は一度きりで終わる保証はない。公共投資がはずみ車のように経済を順調に回転させるという実証はないのだ。仮に3年続けたとすると国債を40兆円発行しなければいけなくなる。とても現実味はない。三橋氏は基本的には「価格統制」論者であるようで、以前にも小泉内閣での自由化によってタクシー業界がダメージをうけ、タクシー料金が上がったという。逆に言えば、タクシー料金はそれが妥当だったという事ではないだろうか。規制緩和をすると、思いもかけない影響が様々に起きて、政府としては非常に面倒な状態が生まれる。価格統制や統制経済が好きな人は、こういう偶然性やトラブルが嫌いなのだろう。

しかし、こういうハプニングに挑戦する人がいなければ経済の発展など望めないと思うのだ。

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