2009年12月25日金曜日

イノベーションや生産性改善や内外価格差の利用による価格競争はデフレではない

週刊誌でどこかの大学教授が「ユニクロ型デフレ」なるものを"創造"し、槍玉に上げていて、それに対して池田信夫氏が批判を加えたり、ファーストリテーリングの柳井氏が「反論に値しない」と言ったりと話題になっている。新聞記者ですら「ユニクロやエイサーの様な企業が日本をデフレに追い込んでいる」などと言うほどに、「デフレ」は誤解されているのだな〜と思い、備忘録としてまとめておこうと思う。

ユニクロなどが取り組んでいることは、資源の内外価格差を利用したコスト削減である。エイサーは生産数を蓄積することで、コモディティー化した領域でコストを削減し続ける経験曲線モデルを採用して価格競争力を高めた。

シュンペーターはイノベーションを以下の5つに分類した。

1)新しい財貨の生産
2)新しい生産方法の導入
3)新しい販売先の開拓
4)新しい仕入先の獲得
5)新しい組織の実現(独占の形成やその打破)

ユニクロがやったことは4)の「新しい仕入先(中国の協力工場)の獲得」であり、2)の「新しい生産方法(SPA)の導入」であった。最近はヒートテックなどの1)新しい財貨の生産も始めている。エイサーがやったのは3)新しい販売先の開拓である。今までコンピューターメーカーに販売していたのを直接消費者にアプローチすることでイノベーションを起こした。

イノベーションの大半は価格破壊を伴う。かつてトヨタは質の良い自動車を低価格でアメリカで販売した。トヨタは「新しい生産方法の導入」によるイノベーションでアメリカの自動車メーカーに比べて圧倒的に低価格で自動車を販売した。トヨタが引き起こしたイノベーションは「生産性改善」をもたらした。これは生産に関わる労働力の削減、つまり自動車メーカーで必要とされる労働者を減らすことに成功した。

そう。生産性の改善はその産業の雇用吸収力を小さくする。そのため短期的には失業者が増加する。しかし、かつて灌漑や鋤・鍬の発明によって農業の生産性が改善して農業を離れた人たちが他の商工業によって世界を豊かにした様に、その産業や企業を離れた人たちが新たな事業を起こし、新たな雇用を生み出すのだから、短期的な失業者の増加はむしろ新たな雇用を生むチャンスを増やしていると言える。

では、ユニクロやエイサーがやったこととデフレは関係があるのだろうか?それは「デフレとはなんぞや?」ということに答えないといけない。デフレとは、需要が供給に対して大きいために、財貨が買いたたかれることによって物価が下がることを言う。今の日本は欧米の金融不安によって心理的に縮こまっており、需要が引き下げられてしまっている。そのため物価が僅かに下がる傾向を見せている。

このデフレによる物価下落は「生産性改善の裏付けがない」ことに特徴がある。つまり、企業が値下げをするには従業員の給与カットや仕入先に値下げを強要するしかないのだ。一方でユニクロやエイサーはイノベーションによって価格破壊を行っている。そのため彼らの売上は拡大し、関連企業や業界は潤っている。ユニクロは店舗を増やして雇用を生み出しているし、エイサーを扱うことで量販店も潤っている。衣類生産の雇用は中国に流出したが、鎖国でもしない限り雇用が流出することは避け得ない。

日本はこれから労働人口が減少していく時代になる。労働力が過少になれば賃金は高くなっていくが、それだけの高給を得られる仕事は少ない。だから、今までのやり方を全く変えて生産性を上げることに真摯に取り組まないといけない。それを学者ともあろう人が、特定企業のビジネスモデルを根拠もなく批判するとは。学界や論壇にこそイノベーションが必要ということなのだろうか?