2008年12月24日水曜日

不況を機会に変える

景気が一段と厳しさを増す中、製造会社の雇用調整が加速している。

『共産、トヨタと会談し雇用維持要請 「社会的責任重い」』(朝日新聞)

トヨタだろうが、キャノンだろうが、売れなくなったのだから生産するものがないという現実は変わらない。一昔前であれば、不景気の時に在庫を積み上げて景気が回復してから売り出すということが出来ただろう。しかし、今は3ヶ月で商品が陳腐化してしまう時代。売れもしないものを作ることは出来ない。

ならば、消費が冷え込んでいるこの時代には製造業が雇用を維持するというのは「ボランティア」に等しくなってしまう。働きもしていないのに給料を支払うというのは倫理的にも難しいだろう。共産党は見込み生産でも何でもすれば良いというかもしれない。でも、今の消費環境では見込み生産は決して出来ない。在庫は直ぐに不良資産になってしまう。

であれば、製造業から労働力をシフトすることを考えるべきだ。何に。。。?

一つは農林水産業。この2〜3年、「食」に関する不祥事が相次いだことで農林水産物の国内産へのニーズは高まっている。政府は減反こそは控えるようだが、国内には耕作放棄農地は沢山ある。そして、労働力は余っている。ニーズがあって、リソースが余っているならば農業に労働力をシフトさせて国内生産を活性化させない手はない。
農林水産への労働力シフトのネックは「農業権」「林業権」「漁業権」などの規制だ。農業をしたいという人が農地を購入して事業として農業を行うのは実質的には難しい。生産物を流通させる権利は「農家」や「漁師」にしかないからだ。乱獲や不正な土地利用を制限するための政策だが、結果として農林水産業従事者を減らして国内の生産力を減退させる結果にしかなっていない。
戦後、「開明的なGHQ」の官僚たちは「農地解放」と銘打って農業事業者、つまり庄屋から土地を奪って小作人に分け与えた。小作人の労働を庄屋が搾取しているという誤解に基づいたものだ。実際には大規模農地を管理して小作人に分け与えることは、小作人の家族人数に合わせてリソースを分配したり、外来者に開墾地を都合するためには必要な面もあった。農林水産業以外では一人では保有できない大きな資源を雇用者に分配して生産に従事させるということはどこでも行われている。農林水産だけが別というのはおかしいのではないか。

次に、医療や介護などの福祉事業だ。所謂「たらい回し」と言われることは実際には福祉業界での人手不足に起因する。閉鎖された医療機関も沢山ある。医師や薬剤師、看護師は人の生命を預かるとして特別な教育が必要とされているが、長期にわたる特別な教育が必要のないサポートスタッフなどが配置されれば人手不足の解消につながるだろう。例えば、医師は処方箋を書き、薬剤師はそれを監査して取り揃え、間違いがないか確認をして医師や看護師に薬品を払い出す。だが、薬品を指示内容に従って揃えるのは薬剤師ではなくても出来ることだ。今の法律ではそれは出来ない。看護師が介護が必要な患者をベッドから車椅子に移すのもサポートスタッフがやっても良い。
そして、何より医療行為に対する介助への健康保険の支払いも行われるべきだろう。もちろん、一定の訓練は必要だ。適性のない人を除かないといけないだろう。だが、製造業の期間工など一定の力仕事やチームでの仕事に慣れた人であれば十分に従事できるのではないかと思う。

他にも保育や教育などの現場など多くの場所で人手不足はある。不況で自動車産業やその他の製造業が苦境に陥ったのは一つのサインだろう。つまり、「もう、そんなにモノは必要ないよ」というサインだ。マズローの5段階説に従えば、「安全や安心」が保障されなければ自己実現の道具である高付加価値商品は消費されない。不況で「自分達は安心して生活できるのか?」「安全な生活圏を確保できているのか」ということに興味がシフトしてしまった。ならば、徹底的に「安心や安全」をビジネスにしよう。一つは「食」、そしてもう一つが「福利厚生」だ。

この不況、こう考えてみれば「悪くない」。

0 件のコメント: