2009年8月12日水曜日

非効率な物流資本配置

大矢昌浩氏が日経ビジネスオンラインに寄稿している。

「次の内閣」の物流行政を読む:日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20090806/201934/?top

その中で日本がアジアにおける物流競争力を落とした原因を以下の様に記述している。

「原因の1つは政治家の利益誘導だ。アジアの物流強国はいずれも国策としてハブ港に投資を集中させている。ところが、日本は政治家たちがそれぞれ自分の地元に国の社会資本整備費を呼び込むことに奔走し、投資が分散した。それによって国が衰退しようとも、身内が潤えば政治家は自分の立場を守ることができる。」

全く同感である。例えば先日開港した静岡空港。そもそも新幹線も通っていて、近県の空港が利用できる静岡県に航空便の需要がどれだけあるのだろうか?関西国際空港や中部国際空港ですら収支が合わないと騒いでいる中で、何故東京と名古屋に挟まれた静岡に空港が必要であったのかということだ。収支が合わなければ結局は国や自治体が税金から補填することになる。

日本には国内をつなぐ交通網として新幹線がある。交通行政を考えた場合、新幹線と在来各線をスポークとして、全国に10箇所程度の空港をハブとして機能させるのが最も効率が良いはずだ。それが全国に空港と名のつくものは80以上ある。これでは本当の意味での「ハブ空港」に資本を集中できないのも無理はない。港湾も同じで全国で「特定重要港湾」と言われるもので23箇所、「重要港湾」に至っては140箇所近くもある。一応中枢港湾として横浜・名古屋・大阪・神戸がメガターミナル機能を持つ国際物流拠点として整備されているが、他のアジアの港湾の取扱量に比べると甚だ小さい。

物流インフラが整っている場所にこそ産業が集中発展する。しかし、日本では産業政策と物流政策が一致しているわけではないので、貴重な社会資本をさして重要ではない空港や港湾の整備に分散投資してしまい、今やアジアでは全く見向きもされない。元々島国である日本は海外通商によってしか発展する余地はなく、それがアジアの他の地域に席巻されてしまっているために、日本が誇るものづくりの生産能力が持ち腐れる結果となってしまっている。

池田信夫氏が「アメリカ企業がソフトウェアやアーキテクチャを支配し、それを低賃金のアジアでハードウェアに実装するという国際分業が成立した」ことが日本企業の敗北につながっていると書いている。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/39c2970f079ebad7f1ef793ec99f7105
そう、日本の産業は自動車産業など一部では世界を圧倒するほどの力を持っているが、その他では世界市場で殆ど勝てていない。アメリカやヨーロッパがアーキテクチャとソフトウェアを決定し、アジア諸国がハードウェアを生産するという図式の中で、日本はアーキテクチャを決めてソフトウェアを開発しハードウェアを生産して埋め込むという「垂直型産業モデル」を続けている。アメリカは「日本はアーキテクチャとソフトウェアを輸入しない」と批判されアジア諸国からは「日本は技術を輸出しない」と攻め立てられる。その内港湾や空港のように日本が欧米とアジアの間でパスされてしまうと、今はまだ人口が多く一人当たりGDPが高いので相手にされているが、人口がこのまま減少して年金などの社会保障が破綻してGDPが低くなると相手にされなくなってしまう。

今後、物流を今以上に高度にして輸出立国を成し遂げるか、欧米とアーキテクチャ闘争をするか、いずれにしても強いリーダーシップが必要になる場面であると思う。企業でも同じだが、どんな事業をやるかは民主的ではない手法によって決定される。それはリーダーの個性や情熱によって支えられるもので、その為にアジア各国では長期の独裁的な政権があった。日本でも創業社長は大抵20年くらいは社長をやっている。日本が今更「開発独裁」に戻るわけにはいかないが、ある一貫した経済成長戦略を構想できる政治家集団が長期的に日本を経営しなければ、この長きに渡る低迷に終止符は打てないだろうと思う。

しかし、今度の選挙で物流政策が取り上げられることはないだろうし、長期的な経済発展や産業政策が主張されるわけでもないだろう。マスコミにおどらされて生活防衛ばかりだ。ローマの古代共和制が衆愚化したのは民衆がパンと娯楽を求め政治家が応えたからだ。その結果は…。本当に、真剣には考えてみなきゃな…。

0 件のコメント: