2008年5月2日金曜日

「中国」という社会システム

中国国内での聖火リレーが続いているが、カルフールなどのボイコットが再燃しているそうだ。このカルフールボイコットは派手に見えるがフランスにしても、 他の国にしてもあまり気にしなくて良いと思う。カルフールは小売店だ。仮に中国における販売が振るわなかったとすれば、それは仕入の減少につながる。そし て、日用品小売店であるカルフールにおいてあるモノの主な生産は中国自身が担っている。
つまり、カルフールで買い物をしなければ中国自身が損をするということになる。生鮮食料品なども国内生産のものが中心に売られているわけだから、ボイコッ トすると中国国内経済に打撃が与えられる。カルフール中国で発生した損失は国境を越えずに中国国内の経済を痛める結果になる。それに、中国の消費者は「実 利」主義なので、いかに運動が展開されようと良い商品やサービスは必ず売れる。

これらの運動はメディアへの露出が大きいので、びくびくしている向きもある。しかし、どの記事を読んでも運動は学生を中心とした若者が行っていて、それ以 外の参加者は目立っていない。これは僕の想像だが、この運動には学生以外の人は関心がないのではないかと思う。そう思うのは、中国は儒教的階級社会がまだ 残っているからだ。
儒教というより、伝統的な科挙システムが残っていると言った方が正確だ。科挙というのは中国の官僚制度を1500年にわたって支え続けた選抜システムのこ とだ。このシステムでは儒学の理解度や表現力、歴史知識などが問われ、試験に合格すれば官僚として登用される。官僚は「士大夫」と呼ばれる。士大夫とは士 農工商の最上位に位置する特権階級であり、社会システムを作ることが出来る。士大夫以外には政治的な権利は基本的には認められない。
中国は近代化の課程でも科挙を捨てたわけではなく、科目を儒学以外に変えて維持していた。大学生などはこの科挙に合格したエリートであり、現代の士大夫と いうことができる。だから、学生は国家意識が高いし、今回のような事件に過敏に反応するようになる。現在の選抜過程には中国共産党への「忠誠心」や「貢 献」というものが含まれるから大学生ともなれば愛国というより中国共産党への忠誠が高い人達ばかりなのだろう。

官僚および官僚予備軍である学生以外の人々は自分の生活と党中央との関係性や国家との一体感が比較的薄い。「上に政策あれば、下に対策あり」というのはそ の証左で、国家の決定と自分達の生活が連続していると感じていないわけだ。エキセントリックな反対運動をしている人たちは中国人全体から見ると「極」少数 と思ってよい。彼らが中国共産党のプロパガンダに忠実なあまり起きてしまう事件なのだと。
だから、問題は中国共産党の国家観や国際感覚が世界とずれていることだということになる。そして、その国家観を決めるのは共産党の極限られた上位者のみ。 その上位者は学力と中国共産党の思想に対する忠誠心によって選抜される科挙システムで補充される。中国の民主化や複数政党化などを期待する向きもある。北 京オリンピックなどがその契機になると思っている人もいるだろうが、この社会システムによって為政者が選抜される限りにおいて、自然に民主化されるという ことは期待できないと思う。

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