2009年7月30日木曜日

成長戦略を語れない人々

今度の衆院選で「日本の成長戦略」が争点になることはなさそうだ。

考えてみれば、如何にバブル崩壊や失われた10年があったとはいえ日本は未だに世界で最も豊かで幸福な国の一つだ。多くの人に「日本がどうしても成長」しなければいけないという切迫感はないだろう。しかし、国債発行残高や人口動態を考えると、このままでひらける展望などない。

しかし、成長は必要なのだ。企業も同じ。事業戦略の話をしていると、今の規模を守ってほどほどに利益を得ればいいという意見が出てくる。社員や取引先、顧客の幸せが満たされれば、今の規模で十分というわけだ。

実はこれ、ビジネスの世界で一番難しいと思う。どんなビジネスであっても、生まれた瞬間から陳腐化が始まる。陳腐化に対応するには不断の革新が必要になる。革新には投資が必要で、その原資は生み出された利益である。負債も利益を担保にしたものと考えると利益は重要だ。

さて、売上が現状維持で会社の規模を変えない、つまり従業員を増やさないとしても、企業は利益を削る三つの課題に対応しなければいけない。一つは陳腐化に伴う価格低下。商品は上市した瞬間から価格が下がる。価格を上げるには、商品のバージョンアップをするしかない。そこには競争相手に負けない革新が必要になる。

二つ目は市場の成熟や全く新しい代替商品の登場による市場の縮小だ。市場は成長するが、最後は衰退するものだ。市場が衰退しない産業はない。事業の根幹を揺るがすこの現象に、企業経営者は早かれ遅かれ対応しなければいけなくなる。

最後は人件費や材料費の上昇だ。従業員を増やさなくても、昇給などによって人件費は上がっていく。特に日本では「同一労働同一賃金」の原則はないので、年齢や職歴の長さによって給料は上がっていく。従業員の平均年齢が高ければ人件費は高くなるし、低ければ安くなるのだ。企業の規模が一定であれば、人員構成は時と共に高齢化していく。定年や退職に伴う新規採用や中途採用は企業にとっては他動的な人材獲得作業であり、必ずしも事業に必要な人材が確保されるわけではない。そうして、費用の増加に効率の低下まで合わさると利益は全くでなくなってしまう。

そう考えると、企業は少しずつでも確実に成長を遂げなければ生き残ることすら危ういということになる。成長の度合いはそれぞれだろうが、いずれにせよ適切な成長率は維持できなければいけない。仮にインフレ率が1%で、陳腐化が2%、市場縮小に伴う価格競争で2%、人件費が3%(売上対比で1%)とあがっていくのであれば、売上は6%以上成長し続けなければいけない。

国家も同じこと。日本は国債と借入金、政府保証借入など合わせて900兆円の借金があるので、その利払いだけで年間8兆円近くになる。日本のGDPが550兆円くらいで税収が55兆円くらいなので、税収の15%くらいは利払いにあてられる。元本償還となると今の税収の水準だといつまでたっても減らない。なので、税収が多くならないと日本の財政健全化は遠のいてしまうということになってしまう。勿論支出の抑制も重要。

税収は税率が変わらない限りGDPに比例するので、税率を上げるのがいやならGDPを大きくする以外にないということになる。つまり、日本の産業規模を今の何倍かに成長させないとダメだということになる。そう、産業の成長戦略ということだ。

他国を見てみると、アメリカは「環境産業」に舵をきった。中国は「辺境開発」でしばらくは成長できる。ヨーロッパも「環境産業」で欧米間の競争が激化するのは目に見えている。先日の米中経済協力は産業政策の重点分野が重複しない両国が手を結ぶことで、互いの成長を促進しようというもので、アメリカの現実主義が如実に表れたものだ。

翻って日本はというと、今度の選挙では「生活防衛」とか「安心国家」とかが主題になるようだ。「国民の幸福拡大実現」が政治の目的である以上、こういったものはどの政党でも同じになるしかない。争点は「何」に重点を置いてそれを実現するのかということだ。GDP成長がなくて、福祉を充実させるということは税率が上がるということだ。「企業税率をあげて、消費税を廃止する」とは社民党や共産党が言いそうな話だが、税率が上がれば企業は従業員の給与を下げざるを得ない。仮に消費税が廃止され、税率が上がったら、従業員の給与が5%下がるだけのことだ。ならば、、、やはり産業が成長して、企業が大きくなり、GDPが増えて税収が多くなるしかないではないか。

そういう議論がこの夏に起きて欲しいと思う。

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