2009年6月22日月曜日

サプライサイドからデマンドサイドへ〜芸術からデザインへ

百貨店の5月の売上状況が百貨店協会から発表された。
http://www.depart.or.jp/common_department_store_sale/view_past_data?month=06&year=2009

前年度に比べて売上高は12.5%(店舗数を調整した値は12.3%)減少した。去年の3月から15ヶ月連続で前年割れをしており、今年の2月からは四ヶ月連続で10%を越える減少幅だ。衣料品の減少は15.4%で食料品が5.2%だから売上減少の多くの部分が衣料品の販売不振によるものと言える。消費者が衣料品を買わなくなったのかというとそうでもなくユニクロの5月売上は前年比で18.3%の伸びを示す。(http://www.fastretailing.com/jp/ir/monthly/pdf/MonthlySales_2009.pdf

消費者が不況で価格重視になってきていて高価格である百貨店衣料品を買い控えているのだ、というのが業界内の見解だが、百貨店衣料の販売不振は今回のリーマンショックが始まる前から数年にわたって続いていて、逆にユニクロの売上増もこの数年のことである。だからアパレル業界で不況を業績不振の理由にしている人は生き残れないだろう。事実としてはアパレルの売れ方が変わってきたということなのだ。

去年H&Mが銀座に出店し、次いで原宿に出店したときに業界内の人は「ああいう品質と価格のものが長続きするとは思えない」とか「一時的にはブームになるかもしれないけど、どうだろうね」などと言っていた。ブランドに対する信認があつい百貨店やブティックの商品が負けることはないと思っていたわけだ。しかし、実際は不況の影響もあるが、既存ブランドは業績が悪化し、ユニクロとH&Mは快調でForever21が更に進出して賑わっている。

「ファストファッションの受容が示す日本のコンテンツリテラシー」
http://japan.cnet.com/column/contents-innovation/story/0,3800096235,20395286,00.htm
「現状では、ファッションコーディネイトに関する知識が豊富なユーザーが「プロ化」し、どんどんクリエイティブな方法でファストファッション使っています。具体的には、ファストファッションと非ファストファッションを併用し、巧みに使い分けているという状況があります。今後はこれがより進んで、一種の「糊」としての機能がファストファッションの主要な機能の1つになる可能性があります。」

という様に、実際には消費者側がファストファッションを含めた多様なファッションを組み合わせて自分らしさを演出する様になり、ユニクロもH&MもForever21も好調を維持していると言えるわけだ。それによって相対的に百貨店などの衣料品販売が落ち込んできているのだろう。というのも、家計に占める衣料品購入は目立つほど減ってはいないからだ。家計の衣料支出を100とすると、以前は40が百貨店での消費だったが、それが30〜20と減少していったのだ。

ユニクロやファストファッションと百貨店をはじめとする既存のアパレルの最も大きな違いは調達にある。例えば調達はファストファッションは日々行っているが、通常のアパレルでは「SS(Spring
Summer)」と言われるように春と夏の二季をまとめて手配する。長い場合は6ヶ月以上前に調達を済ませてしまう。実際に商品が入るのはシーズンの1ヶ月程度前。だから、春物が2月の終わりころから。夏物はGWの後だ。最初に調達した以上に商品は増えないので、店舗が賑わうのはシーズンの最初の売り出しの時と最後のバーゲンの時だけ。それがファストファッションでは毎日のように商品が変わるので消費者は買わなくても常にお店に行かなければいけない。

以前はアパレルメーカーはファッションを「作り出して」いた。これは物理的なだけではなく流行としてのファッションを作り出していたわけだ。戦後本格的に洋装が輸入され、昭和30年代までは見られた和装は全く姿を消した。昭和40〜50年代には洋装の流行が何回か現れたが、それはアパレルメーカーや一部のファッションリーダーが発信したものに追随するものでしかなかった。それが平成の大不況を越えてこの10年くらいでファッションやお洒落といったものに対する消費者の知識量が格段に増加して、ファッションが一部の人や企業によって発信され作られるものから、多くの消費者によって作られ相互に影響し合うものに変わっていったのだろう。そこではアパレルメーカーは消費者がファッションを発信する素材を提供するサプライヤーにすぎなし。商品の品質はもちろんある程度維持されている必要があるが、それよりも商品の種類が多ければ多いほど消費者の発信に役立つわけだから、成功の基準が「良いデザインを発信すること」から良いかどうかは分からないのだから「多くのデザインを発信すること」に変わっているのだ。

その昔、日本の絵画は屏風絵などに代表されるように大名や大商人などの特権者にしか親しまれない「芸術」であった。それが時代が下り、多くの絵師が浮世絵を描き版画が沢山頒布される生活の中の「デザイン」になった。先日、イタリアのブランド・ジルサンダーの創業者であるデザイナーのジル=サンダー女史がユニクロにデザインを提供することを発表した。センスの良いぴか一の商品がそれを良いと感じる感性の人だけに提供される「芸術」の時代から多くのデザインが多くの人に親しまれる「デザイン」の時代がアパレルにも到来したのだということだと思う。

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